『ブレイブ・ストーリー』上・下巻
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/03/05
- メディア: 単行本
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- はじめに
「真の旅は帰還である」
まずは、私の敬愛するル=グウィン*1の小説にあるこの言葉から今回の感想を始めてみたいと思います。
長らくお待たせいたしました。
やっとこの長い物語の感想をあげる日がやってまいりました。
まずはお詫びを、感想を述べるまで長くかかってしまい申し訳ありませんでした。
そしてもう一つ。今回も長くなりそうです。ご面倒をかけてすみません。
もし、少しでもご興味をお持ちでしたらぜひお付き合いくださいませ。
では、まいりましょうか!
- ファンタジーの逆説
この作品は宮部みゆき先生には珍しい、大作ファンタジー小説になっております。
宮部先生というと『ステップ・ファザー・ステップ』や『人質カノン』から始まり、
『火車』『理由』*2などハードな現代ミステリー、『鳩笛草』『クロスファイア』など超能力モノ、『ぼんくら』『幻色江戸ごよみ』など時代劇、
それに先週感想をおとどけした『ぱんぷくりん』のような絵本まで幅広いジャンルで活躍している作家さん、というイメージです。
それがいきなり〝異世界ファンタジー〟おまけに『はてしない物語』ばりに、主人公が異世界を旅する系…正直、発想としては「古い」。
宮部みゆきといえば現代的なミステリの切れ味か、もしくは時代物に代表される人情の機微がみどころ
『ドリーム・バスター』シリーズという例外はありますが個人的認識としては〝ファンタジー〟とは縁遠い作家とばかり思っていました。
甘かった…。
…甘かったです、自分の認識。
よくよく考えれば〝ファンタジー〟というジャンル自体が現代の裏返しという側面を持つものでした。
この解釈はあまり好きでないですが、たとえば〝ファンタジー〟の金字塔『指輪物語』の〝指輪〟が実は「核」の隠喩であるというのは有名な話です。
ファンタジー好きを自認しているのにそれを忘れていたとは…。
〝ファンタジー〟は現代の反射光である。
宮部みゆきは娯楽として異世界ファンタジーを書こうとしたのではない、
現代社会の反射光、真の意味での〝ファンタジー〟を書ききっていたのわけです。
これは一本、とられました。
気楽に楽しめれば良いやと思っていたハヤシの完敗です。
宮部みゆきは現代ミステリや時代ものだけの作家じゃない、希代のファンタジー作家でもありました!
さて、以下は情け容赦なくネタバレ感想にまいります。
未読の方はできれば、読後にご覧くださいませ。
====
- 現実世界<第一部>
舐めてかかっていた…とは言い過ぎかもしれませんが気楽に構えていたせいで
読み進めて割とすぐにごっついボディーブローを食らいました。
主人公・三谷亘少年(11)に降りかかる圧倒的過ぎるリアルな〝運命〟
正直、押しつぶされそうでした。
宮部作品といえば、どんなに深刻でやるせない話であっても各作品に最低一人くらいは良識のある人がおり、主人公の導き手として描かれていることが多かったので、たとえすさんだ事件が題材の作品であっても一抹の救いがある…というのがハヤシ認識だったのですが、これは違う。
亘少年が多少、理屈っぽいところはあれど、
普通の子供…むしろかなり良い子だというのに…
まわりの大人が酷すぎる。
皆一様に自分のことしか考えておらず、愛と独占欲・所有欲をはきちがえ、自分の子供ですら道具でしたかない…そんな人々ばかり。
しかもそれが人間の情をあわせ持っている〝フツウの人〟なのだから始末におけない。
お前らそれでもヒトの子かッ!ヒトの親かッ!!
情愛や恋愛ごときがそんなに大事か!?
もう読者ですら主人公・亘同様に吹きすさぶ業の嵐の只中で吹き飛ばされ打ちのめされるしかないという……。
なにより恐ろしいのが作中の〝現実〟をこえた〝現実〟…われわれの生きるリアル世界な訳でして…。
亘の境遇はとても酷いんだけど、まさに〝リアル〟にこんな子供がいてもおかしくない、
むしろ何百人といるだろうということがなにより怖い。
刊行直後の新聞の新刊書評で、この第一部のほうがファンタジーの2部よりすさまじいといった記事を見かけましたが、個人の感想としては確かに一理はあります。
プロの書評家としてはこの感想では3流だと思いますが…。
- 〝幻界〟第二部
どん底まで堕ちきった先、たどり着いた第二部〝幻界〟、冒頭の森やそのまわりの世界が美しければ美しいほど、
出会う人々が(とりわけキ・キーマが)善良であればあるほど一部の陰惨さを思い出させて胸が痛みまする。
そして一見、平和で美しい〝幻界〟ですらやはり現実世界の縮図でないのがまた…
いったい世界がどう転がってゆくのか、ワタルの運命はどうなってしまうのか。
明確な回答にはなかなかたどり着かず、堂々巡りで延々と続いてゆく旅路。
にぎやかな交易の街ガサラ、ふくみのある聖堂の街リリス、おそろしい魔病院、
嘆き沼の惨劇、ルルド国営天文台での騒ぎ、凍えるデラ・ルペシの都の滅亡、
皇都ソレブリア壊滅、そして運命の塔…。
時にワタルの自身の足で、またキ・キーマのダルババ車に揺られて、あるいはファイアドラゴンの子供ジョゾの翼を借りて駆けめぐる〝幻界〟のありよう
人種差別、貧富の差、独裁者の支配する帝国、カルト教団の跋扈、テロ、世情不安。
本当に、最後の最後まで気の抜けない、安心のできない物語でした。
ワタルが口にしたあの〝願い〟ですら、その言葉にたどり着くまで、
予想もできなかった…。
混迷の現代とよばれる〝今〟をこれほどまでに象徴するファンタジーはないでしょう。
多少、やるせない気持ちを抱きつつ最後のページをめくり終えました。
- 終わりに
けれど作品の最後の最後で一抹の救いがあった。
それが自分にとっての救いにもなりました。
「真の旅は帰還である」
結局、運命を変える事はできなかったけれど、
それより重要な運命を切り開く力をワタルは得ることができた…。
よれでよかったのだ、と思います。
駆け足で物語りにせかされる様にして読んだせいもあり、
納得のゆかない点も多いのですが…。
それでもこの物語は私を楽しませてくれたし
現代の最良のファンタジーである、そういってこの感想の筆をおきたいと思います。
…以下はもういっちょ、軽いノリの蛇足です
- ワタル
…というとまさに亘と同じ年頃に見ていた〝魔神英雄伝ワタル〟を思い出すハヤシです。
サンライズのロボットアニメで、『ブレイブ〜』とおなじく小学生の少年*3が異世界を救う救世主として旅をするお話でした。
どことなく『ブレイブ〜』にも似ているような気がいたしまする…。
- 鏡面異世界
…〝現界〟と〝幻界〟は鏡あわせ。
前述の〝魔神英雄伝ワタル〝もそんな設定があったような、ないような…。
とりあえず小野不由美先生の〝十二国記〟シリーズを思い出しました。そんな設定があったようなないような…。
とりあえず太古の昔にうろ覚えの〝ミンキーモモ〟はそんな設定があったはずッ!
実際は「現実世界と裏表です、リンクしてますッ」といわれるよりは
完全に別世界なほうが好みです(すっ、すみませ…っ)。
- ロマンシングストーン・サーガ3
今やってるせいもあり、おもいっきり〝ロマンシングサガ・ミンストレルソング〟を思い出しまする。
「ロマンシングストーンってなに?ディスティにーストーン?」みたいな具合。
実際、本文見るとぜんぜん違ってそうですが、まあ、ね?
でもミンサガやってる人はみんな思いそうだ。
宮部先生もゲーマーだしなあ…。
宝珠の精霊から力を借りて魔法剣を使う、というのはどちらかというと〝聖剣伝説〟っぽいですなあ。なかなか好き設定でした。
…なんだかんだでまた長くなってますね…。
手直しのちのちするとぞおもいますが、本日はここまででおねがいいたします。
無駄長い文章にお付き合いいただいてありがとうございます。
皆様はどのようにこの物語を読んだのでしょう?
ものごっつく気になります。
役に立たない駄目っ子感想ですが、コメントなぞいただけると幸いです。
ではでは本日はここまでッ!!