『後巷説百物語』

京極夏彦・著 角川書店

後巷説百物語 (Kwai books)

後巷説百物語 (Kwai books)


         「御行し、奉る…」


いつもだったらなじみのはずの、鈴の音がなかなか聞こえない…
ちょっとうら淋しい3作目でございます。


っていうか必殺仕事人の次は半七捕物帳ですかーッ!!


明治の世に隠居の老爺が語る、江戸の昔語り
…とくればそれは半七〜形式ですよッ。


ここに来て、一気に変化球!ぬう、してやられたッ!


しかし、その変化球がちょっと淋しいのですな。
裁くに裁けぬ悪党退治の妖怪仕掛けも、文明開化の世にあってはただの昔語り…。


切った貼ったの騙し騙され妖怪仕掛けがちょいと、遠ざかってしまったようで悲しい。
そう感じているのは、一白翁だけではありませんぜ。


読者だって淋しい、悲しい!


第一、肝心の〝真打〟はお預けじゃあないですかッ!


おおお…うッ(号泣)


〝清き白河 魚、住まず 濁りの田沼、いまぞ恋しき〟じゃないんですかいッ!


だ、だ、騙されたッ!


うおんのれ、声はすれども姿は見えずの小股潜りめ!
小一時間、説教してやりたい…ッ!!

まあ、期待して肩透かしってのもそれはそれでね。
〝真打〟じゃないってのは、〝お終い〟じゃないってことですからな。
それは百介の「百物語」ではなくて別の「巷説」で語られるべきことなのでしょう。


待ちますよ、いくらでも。1年だって10年だってね。
人生はまだ長いんですから。


そのようなことで今回の明治版『巷説百物語
「赤えいの魚」「天火」あたりはまだまだ、江戸の『巷説〜』の名残が残っていて
変化球なりに、ちゃんと渡りはつけてあるんだなあと感心。


「手負いの蛇」「山男」でだいぶん文明開花に引っ張られて、
ちょっと淋しくなりながら、油断したところで出くわすのはこれ。


「五位の光」


………。


こんなところで『陰摩羅鬼の瑕』の伏線ですかーいッ!!


おそるべし、おそるべし京極夏彦ッ。
こんなところで、こんなところで………(ぶつぶつ)
いやホント、油断も隙もあったもんじゃないですよ。


がっちり一発食らったところで、あがりのお話は「風神」。
不覚にもラストにちょっと泣きそうになってみたり。


弱いんですよ、こういうの。
好きなんですな、こういうの。


どうやら小股潜り、山猫廻しの魅力溢れる小悪党ども捨て置いて
百介ごときに惚れこんでたようでして。


いや、あっち側もこっち側もふらふらしてる割りに、
危なげなところがほとんどなかった彼は本当に良い、狂言回しでした。*1
彼が居たから、深みに嵌らず飄々と楽しめた『巷説百物語』。


こてにて一旦、幕引きでございます。



………。



京極先生、〝真打〟まってますから(笑)*2

*1:正直、〝妖怪シリーズ〟の関君はイライラするからなあ…そこが彼の持ち味だが

*2:さあ、小野先生の十二国記戴国の続きとどっちが早いかなッ♪