『あなたの魂に安らぎあれ』
神林長平・著 ハヤカワ文庫
生きることがすべてだ。
それはわかっている。
生きていなければならない。
しかしなぜそうしなければならないのかがわからない
p96より
でも人間なんてそんなモンじゃないでしょうか?
人間より優れたアンドロイドに押し込められるようにして、
地下深くの都市・砂沙で幻に溺れながら暮らす人々の魂の彷徨。
『あなたの魂に安らぎあれ』
これで行ってみたいとぞ、思います。
アンドロイド…通称アンチの世界から送られてくる〝完全食〟*1を幻感覚機にかける生活。
ままごとのような仕事、教員すら幻教師の学校、お茶の間のTVでは現実味のないアンチの奥様番組が放送され…。
衣服や、はては表情ですら幻で取り繕われた世界…。
読んでいて、長野まゆみの『テレヴィジョン・シティ』を思い出しました。
もっともハードSF上等の神林長平と幻想文学領域に生息する長野まゆみじゃ
雰囲気はずいぶんことなりますが(笑)
たしか『テレヴィジョン・シティ』は主人公の少年が、
完全管理に置かれた軌道上のコロニー?をエクソダスして
地上に降りたところでエンドロールだった気がしますが
此方は〝青い星への帰還〟の物語ではなく
〝青い星への帰還者を待つ人々〟の物語でした。
初版が86年と初期?の作品らしく
いつもの神林3大テーマ分類*2が曖昧な印象でしたが、
それを補って余りある読み味。
〝火星〟とばかり思っていた世界が、実は〝地球〟であったり
たいへん重要な人物=〝人間〟が実は〝アンチ〟であったり*3
どんでん返しもなかなか新鮮。
まあ、だいたい予想できちゃうんですが…orz
また終末予言じみた〝エンズビル〟神話の
真相がだんだん明かされてゆく過程や
最後の日が来ると知っていてアンチの老人やその孫娘・舞と穏やかに日々を重ねる
サイ・幻鬼には泣かされました…。
わたしの魂に安らぎを。
幻鬼は祈った。
舞子にも。そして老人や舞やアンドロイドのすべての魂に安らぎあれ
…不覚にもバイトの昼休みに弁当つつきながら泣きそうになりました。
日々、世知辛いことが多いですが、
久々に純粋な、あるいは完璧な涙でしたねえ。
終盤のアンチたちの再生シーンも秀逸。
こういう鮮やかな転換があるから神林作品はやめられない!
ここで猫が出てくるのも神林作品のおやくそくというか(笑)
アンドロイドが人間の被造物だっていうなら〝ロボット三原則〟でも
くっつけときゃ良かったのにとか余計なツッコミもいれられるけど、
そんなもやもやはラストシーンが吹き飛ばしてくれますぜ!
本当に、映画のラストシーンのようにしみじみと浸りました。
心の、いや魂の洗濯でした…。
そんなこんなで火星三部作。
長い目で見て、『膚の下』まで続けて読んで生きたいです(笑)
- 次回予告
実はちょと風邪(しかもお腹系)を引き込んでしまい、
明日はお休み療養です。
いつもの平日〝リュー各話感想〟は最速、火曜日お届けで。
本はただ今、映画化で話題沸騰の『ゲド戦記』…
………の作者、ル=グウィンの『なつかしく謎めいて』です。
『ゲド戦記』も大好きだし良いのですが、
職場でご飯食べながらの今の読書スタイルじゃ、
あの大判サイズはちときつい(本音)
年末年始乗り切ってからですね…orz
ちなみにご無沙汰の〝マリ見て〟ですが
「ウァレンティーヌ〜」前編がいっかな図書館に帰ってこない。
業をにやして検索したところ
〝12月11日返却予定 延滞中〟
………。
いつまで借りとるんじゃーッ!!
おあとがよろしいようで…本日はここまでッ!!